さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

『El matrimonio de los peces rojos』(赤い魚の夫婦)グアダルーペ・ネッテル

昨年から極めて地味に亀の歩みで進めている「今をときめくラテンアメリカ女性作家を読もう」キャンペーン、今回はメキシコの作家グアダルーペ・ネッテル。既に2021年に宇野和美氏の訳で日本語版も出ていて評判が良いようで、日本翻訳大賞の最終候補にもなっ…

『Gilead』(ギレアド)マリリン・ロビンソン

アイオワ州の架空の小さな町Gilead。76歳の牧師John Amesは、67歳の時に35歳年下のLilaと出会って結婚し、息子を授かった。自分の死期が迫っていることを悟ったJohnは、まだ幼い息子が成人した時に読むようにと長い手紙を書き始める。前半は主に代々牧師を務…

『ミドルマーチ4』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 一巻の感想 二巻の感想 三巻の感想 ネタバレです。 とうとう最終巻。 バルストロードは暗い過去をネタにラッフルズが強請ってくる為、恐怖のどん底に突き落とされる。そしてラッフルズが病気に倒れると、彼の死を願うバルス…

『ミドルマーチ3』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 一巻の感想 suzynomad.hatenablog.com 二巻の感想 suzynomad.hatenablog.com ネタバレです。 カソーボンが死んだ。人生かけていた論文があまり見込みのないものだということに薄々気づきつつ、それすら生きているうちにまと…

『ミドルマーチ2』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 一巻の感想はこちら suzynomad.hatenablog.com どんどん盛り上がってきたよ! この巻ではフェザストーン老人の遺産相続をめぐる騒動、カソーボン夫妻の関係悪化及びドロシアとラディスローの接近、リドゲイトとロザモンドの…

『ミドルマーチ1』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 取り敢えずまだ1巻目なので、簡単な覚え書きを。 久しぶりのヴィクトリア調文学。私はこの時代のイギリス小説がかなり好きで一時期かなりハマって読んでいたのに、傑作と名高いこの作品は未読だった。翻訳者の廣野由美子氏…

『Cloud Atlas』(クラウド・アトラス)デイヴィッド・ミッチェル

ネタバレしてます。 “As if Art is the What, not the How!” 本作の登場人物の一人Timothy Cavendishの言葉だ。勿論反語的に使っていて、Artは”What”ではなく”How”だと言っているのだ。そして本作は”How”に非常にこだわった作品である。 物語は6つ。オムニバ…

2023年の読書目標

今年の読書目標 1.『ミドル・マーチ』を読む 英語で読もうか翻訳で読もうかずっと迷っていたけど、光文社古典新訳文庫で廣野由美子氏による新訳が全巻刊行されたので、日本語で読むことにした。楽しみ。 2. ピューリッツアー賞フィクション部門の受賞作品を…

『The Uncommon Reader』(やんごとなき読者)アラン・ベネット

ネタバレしてます。 エリザベス女王はある日飼い犬を追って行った先で、宮殿の厨房の出入口付近に停まっていた移動図書館に出くわす。読書とは縁のない人生を送ってきた女王だが、礼儀として本を一冊借りていく。それはかつて勲章を授けたアイヴィ・コンプト…

2022年 読書振り返り

今年読んだ本のリストは以下の通り。 リンクは感想のページに飛びます。 【洋書(英語)】 『Wolf Hall』(ウルフ・ホール)ヒラリー・マンテル 『Bring Up the Bodies』(罪人を召し出せ)ヒラリー・マンテル 『How to Read Literature Like a Professor』…

2022年 映画一言感想

今年映画館に行って観た映画の極めてテキトーな感想を。映画館も歩いて行けるところにあるからもっと頻繁に行けそうなものだけど、根が出不精なので結局たまにしか行ってない…。 ネタバレしてます。 『The Menu』(ザ・メニュー)マーク・マイロッド監督 そ…

『Gone Girl』(ゴーン・ガール)ギリアン・フリン

ニックとエイミーの夫婦はニューヨークに住んでいたが、二人ともライターの職を失って、2年前ニックの故郷であるミズーリ州に移住した。外からは理想的な夫婦に見えた二人の関係は問題を孕んでいた。そして5回目の結婚記念日にエイミーは突如姿を消す。しか…

『献灯使』多和田葉子

講談社文庫 2018年全米図書賞翻訳部門受賞 東日本大震災、特に原発事故に触発されて書かれた物語集。 献灯使 義郎と曾孫の無名は東京西部の仮設住宅で暮らしている。何か酷い厄災が起きて東京中心部が汚染され、人が住めなくなっているようだ。鎖国して外国…

『ガルヴェイアスの犬』ジョゼ・ルイス・ペイショット

木下眞穂訳 新潮クレスト・ブックス 第5回日本翻訳大賞受賞 1984年1月のある夜、ポルトガルの小さな村ガルヴェイアスに、宇宙の果てから「名のない物」が落ちてきた。コルティソの原っぱに爆音と共に落ちてきたその巨大な物は、高熱と強烈な硫黄の匂いを発し…

『批評の教室』北村紗衣

筑摩新書 初心者を対象とした批評入門書。批評を「精読する・分析する・書く」の3つのステップに分け、各ステップをどのように進めるのか具体的に説明している。 精読では、出てくるものには全て意味があることを前提に細かいところまで注意して読むこと、…

『The Amazing Adventures of Kavalier & Clay』(カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険) マイケル・シェイボン

2001年ピューリッツアー賞受賞 1939年ナチスドイツ占領下のプラハ。マジック(脱出術)と美術を学んだユダヤ人青年ジョセフ・カヴァリエは、ユダヤ人コミュニティの先行きを危惧した家族の後押しを受け、ニューヨークの叔母の元へと亡命する。 紆余曲折を経…

『おばちゃんたちのいるところ』松田青子

中公文庫 2021年世界幻想文学大賞(短編部門)受賞 歌舞伎や落語などの、日本で昔から語られてきた古典や怪談話をモチーフにした連作短編集。古い物語だと女性がやたらに酷い目にあったり、悪女に仕立て上げられたりする事も多いけれど、そういった物語に別…

『The Mirror & the Light』(鏡と光) ヒラリー・マンテル

ウルフ・ホール三部作の最終作 2020年ブッカー賞ロングリスト、2020年女性小説賞ショートリスト、2021年ウォルター・スコット賞 第一部の感想はこちら suzynomad.hatenablog.com 第二部の感想はこちら suzynomad.hatenablog.com ネタバレです 前作はアン・ブ…

『Florida』(丸い地球のどこかの曲がり角で)ローレン・グロフ

タイトル通り、舞台がフロリダ若くは主人公がフロリダ出身/在住という設定の作品を集めた短編集。作者のグロフ自身が夫の出身であるフロリダに移住している。 フロリダという地が単なる背景ではなく、その気候と自然がダイレクトに登場人物の心理や行動に強…

『闇の奥』ジョゼフ・コンラッド

光文社古典新訳文庫 黒原敏行訳 ✴︎ネタバレしてます 船乗りのマーロウは蒸気船の船長としてアフリカの奥地へ赴任する。そこには人を寄せ付けない沈黙の密林が暗く圧倒的な力を有して周囲を取り巻いていた。その地でマーロウは、奥地の出張所にいるクルツとい…

配信オペラ鑑賞リスト

ロックダウン中&後に観た配信オペラ作品のリスト ◎は特に気に入ったプロダクション <新国立劇場> 魔笛 2018 トゥーランドット 2019 ◎ エウゲニ・オネーギン 2019 <メトロポリタン歌劇場> ●ヴェルディ リゴレット 2013 リゴレット 1981 ナブッコ 2017 椿…

配信観劇リスト

ロックダウン中&後に配信で見た舞台作品(オペラを除く)のリスト ◎は特に良かったと思ったプロダクション 【ストレート・プレイ】 <ナショナル・シアター・アット・ホーム> ジェーン・エア 2015 ◎ 宝島 2015 十二夜 2017 フランケンシュタイン(カンバー…

『Dune』(デューン/砂の惑星) フランク・ハーバート

西暦10191年、人類の築いた宇宙帝国は、皇帝、領家連合、航宙ギルドの三者の権力バランスの上に成り立っていた。 有力領家の一つであるアトレイデス家は、水と緑の惑星カラダンから惑星アラキスへの移封を命じられる。アラキスは砂漠に覆われているため別名…

『Winter』(冬)アリ・スミス

アリ・スミスのBrexit小説、四季シリーズ第二作。 ライター志望の青年アートはクリスマス直前に恋人のシャーロットと大喧嘩、彼女は怒って出て行ってしまう。クリスマス休暇に実家に行って母親にシャーロットを紹介する予定だったアートは、街で見かけたラッ…

『How to Read Literature Like a Professor』(大学教授のように小説を読む方法)トーマス・C・フォスター

私は何故文学作品を読むのか。何よりそれが喜びを与えてくれるから。作品世界の中に入り、笑い怒り悲しみ驚き考え込み、読み終えて本を閉じ周りを見渡すと、そこに変わらない世界があることに不思議な気持ちになる。でもそれと同時に世界と自分が読む前とは…

『ジェーン・エア』ナショナル・シアター@home

Jane Eyre 2015年 National Theatre & Bristol Old Vic Sally Cookson演出 私の住む街には劇場が多くて、歩いて行けるところだけでも4つある。ファミリー向けのプロダクションも多くて質が高いから、以前は子供を連れてよく行っていた。でも大人向けのものは…

2021年に読んだ本

今更ながら2021年に読んだ本のリストを。 【洋書(英語)】 The Hitchhiker’s Guide to the Galaxy(銀河ヒッチハイク・ガイド) The Restaurant at the End of the Universe(宇宙の果てのレストラン) Life, the Universe and Everything(宇宙クリケット…

『Pájaros en la boca y otros cuentos』(口のなかの小鳥たち)サマンタ・シュウェブリン

アルゼンチン出身で現在はベルリン在住の作家サマンタ・シュウェブリンの短編集。日本語版は15の短編を収めた2009年版からの訳で、私が読んだのは更に7編加えて2017年に出版された版。中身の順序もちょっと違うみたい。英語版はまた少し違いがあって、『Mout…

『Bring Up the Bodies』(罪人を召し出せ)ヒラリー・マンテル

ウルフ・ホール三部作の二作目。 2012年ブッカー賞、コスタ賞受賞 三部作の一作目の感想はこちら suzynomad.hatenablog.com ✴︎激しくネタバレしてます。 前作と同じスタイルだけど、前作に比べてフラッシュバックや脱線が少なく、話がほぼ一直線に進むのでか…

『Los peligros de fumar en la cama』(寝煙草の危険)マリアーナ・エンリケス

アルゼンチンの作家マリアーナ・エンリケスの最初の短編集。スペイン語の出版は2009年。2021年に英訳『The Dangers of Smoking in Bed』が出て、国際ブッカー賞のショートリスト入りを果たした。まだ日本語訳はないみたいだけど、エンリケスの別の短編集(『…