筑摩新書
初心者を対象とした批評入門書。批評を「精読する・分析する・書く」の3つのステップに分け、各ステップをどのように進めるのか具体的に説明している。
精読では、出てくるものには全て意味があることを前提に細かいところまで注意して読むこと、自身の性的嗜好を自覚すること、作品は作者の手から離れたものであり受容側が自由に解釈してよいが、作品の社会的歴史的背景等を考慮することは必要、などがポイント。分析する際は、批評理論を利用する、タイムラインや絵図を書いて理解を深める、要素に分解してみる、他の作品との関連を見出す、など。いよいよ書く段階に入ったら、ターゲット層を想定し切り口を絞る、作品が大体どういうものか分かる様に伝える、更には書き出しとか書けない時にはどうするかといった具体的なテクニックなどが示されている。そして最後は実践編で、著者の教え子と映画作品の批評を書いてお互いに相手の批評について意見交換をしている。
学生に語りかけているような文章かつ内容が分かり易いので気軽に読める。これから批評を始めようとする人達の背中を押してくれる感じだし、批評はクリエイティブな芸術作品であるとして、著者自身が批評に誇りを持って楽しんでいる様子が窺えて好感が持てる。
特に成る程と思ったところは、書く際に先に具体的なタイトルを決めてしまうというテクニック。確かにこうすると議論がズレてしまうことを防止する効果があるかもしれない。
自分が若かったら著者のゼミを取りたかったなあなどと思いつつ、実践編を読んで愕然とする。レ、レベルが…高い‼︎ 今時の大学生ってこんなに優秀なの⁉︎ そして自分が書いているこのブログを顧みて顔を赤らめるのだ。いや、これは批評じゃなくてあくまで自分が忘れない為の感想文だし…ゴニョゴニョ…。
ちなみに当たり前だけどこの本は入門書、取っ掛かりだ。読んで直ぐに立派な批評ができるわけではない。概要と道筋を示してもらったらあとは自分で積み重ねていくしかない。間テキスト性を見出したり、作家や監督の傾向に気づいたりする為には、それなりの作品数を読んで/観て自分のストックを作っていく必要がある。ちょっとした事でも厭わずにフットワーク軽く調べなければならない。
なお批評理論については主にポストコロニアル批評、フェミニスト批評、クィア批評について触れられているのみ。個人的には哲学的な批評理論をこういうスタイルでもう少し色々説明してもらえると良かったけれど、参考文献も挙げられているし、本書の意図からすればしょうがないか。
あと『ミドルマーチ』は来年の読書用に積んであってあまり前知識を入れたくないので、同作品を扱っている部分については飛ばして読んだ。