さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

『夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク・ハッドン作 小尾芙佐訳

 

2003 ウィットブレッド賞(現コスタ賞)小説部門受賞

 

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クリストファーは特別支援学校に通う15歳の少年。父親と二人で暮らしている。

 

数学や物理が非常に得意で、論理的に考え、ものごとが秩序だっているのが好きだ。映像的な記憶力が飛びぬけていて、過去の詳細な記憶をすぐに呼び起こすことが出来る。黄色と茶色のものには触れない、違う食べ物が皿の上でくっついていると食べない、などの強いこだわりがある。新しい場所や人混みなどに行くと、ありとあらゆる情報が入ってきて、処理しきれなくて唸り声をあげる。人の表情を読むことができず、冗談が理解できない。怒鳴られたり体に触られたりするとパニックに陥る。宇宙飛行士になることを夢見ている。

 

ある晩、クリストファーは近所に住むミセス・シアーズの飼い犬ウェリントンが殺されているのを発見する。クリストファーは、ウェリントンを殺した犯人を捜すことを決意し、近所の人たちに聞き込みを開始する。更に、この事件についての推理小説を書き始める。

 

犯人捜しの過程でクリストファーは驚くべき秘密を知り、思いもよらなかった冒険へと足を踏み入れることになる。

 

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発達障害を持つと思われる少年クリストファーの一人称で語られ、彼の日々の過ごし方、考え方などが、とても説得力をもって描かれている。もちろん当事者一人一人は大きく異なるからみんなこうだという訳ではない。ただ、発達障害を持つ人がどのように物事を認知し、どのような基準に基づいて行動しているか、ということの一つの例が非常にうまく表現されていると思う。

 

犬殺しの犯人捜しはきっかけであり、その過程で思いもかけない出来事が次々に起きる。スケジュール通りの生活をしないと混乱してしまうクリストファーが、今までやったことのないような冒険をする。特に、ひとりで電車と地下鉄を乗り継いで出かけるところなどは真に迫っていて、読んでいるこちらにも膨大な情報と騒音が一気に押し寄せてくる感じがして、クリストファーのように苦しくなってくる。

 

物語の合間に、数学や宇宙などについて色々と語る部分が挿入されているけれど、それがとても面白い。その部分はクリストファーが雄弁に、生き生きと語っているように感じられる。

 

 

 

 

 

ネタバレです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とても良い作品だけれど、個人的にうーん、となった点もある。父親が、いくらかっとしたからといって、ガーデンフォークで犬を刺し殺してしまうのはちょっと怖い。それ以上に、犬を殺したその父親が仲直りのために子犬をクリストファーにあげるのは少しぞっとする。犬は生き物なんだし。父親が本当に息子を愛して、反省して、関係を改善したいと心から思っているのは十分に理解できるけれど。

 

それ以外の部分では、ちょっとぶっ飛んだところのある両親で、発達障害のある息子への対応が上手い時もダメダメな時もあるけれど、愛情が一方通行にも思えるような息子に対する愛がちゃんと感じられて、そんなに悪い両親ではないなと思える。

 

まったく物語には関係ないけれど、偶然にも本作の前に読んだ『Vigil』の石油王もクリストファーと同じBooneという姓だったな。だからどうという訳ではないけれど…。