さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

読書感想

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『夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク・ハッドン作 小尾芙佐訳

2003 ウィットブレッド賞(現コスタ賞)小説部門受賞 ******************** クリストファーは特別支援学校に通う15歳の少年。父親と二人で暮らしている。 数学や物理が非常に得意で、論理的に考え、ものごとが秩序だっているのが好きだ。映像的な記憶力が飛…

『Vigil』ジョージ・ソーンダーズ

2026年に発表された作品で、邦訳はまだない。 主人公は女性のゴースト。彼女の仕事は、死の床にある人々の精神を癒し慰めること。後悔していること、し損ねたこと、言おうとして言えなかったこと、完全に認めたくない過ちなど、人生の様々な思い残すことを探…

『台湾漫遊鉄道のふたり』楊双子作 三浦裕子訳

中央公論新社 2024年 日本翻訳大賞受賞 2024年 全米図書協会賞翻訳文学部門受賞 2026年 国際ブッカー賞受賞 (Lin King訳) ******************** 作家の青山千鶴子は、自身の小説『青春記』が映画化されてヒットする。それが台湾でも上映されて話題になった…

『Demon Copperhead』 バーバラ・キングソルヴァー

2022年 ジェームズ・テイト・ブラック記念賞フィクション部門受賞 2023年 ピューリッツァー賞フィクション部門受賞(『Trust』と同時受賞) 2023年 女性小説賞受賞 現時点(2026年9月)で日本語には訳されていないようです。 ******************** Damon Fie…

『デイヴィッド・コパフィールド(一)〜(五)』チャールズ・ディケンズ作 石塚裕子訳

岩波文庫 この後バーバラ・キングソルヴァーの『Demon Copperhead』を読む予定なので、その元ネタである本作品を読み返した。 読んだのが遥か昔である上に、『デイヴィッド・コパフィールド』と『オリヴァー・ツイスト』と『大いなる遺産』が頭の中でごちゃ…

『BABEL, OR THE NECESSITY OF VIOLENCE: An Arcane History of the Oxford Translators’ Revolution』(バベル オックスフォード革命秘史)R・F・クァン

2023年 ネビュラ賞、ローカス賞受賞 日本語訳は古沢嘉通訳『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史』が東京創元社から上下巻で出版されている。 ******************** 19世紀帝国主義の時代、大英帝国は世界の覇権を握っていた。それを支えていたのが銀と翻…

『On Beauty』(美について) ゼイディー・スミス

2006年オレンジ賞(現・女性小説賞)受賞 日本語版は堀江里美訳「美について」が河出書房新社から出ていたが、現在品切れのようだ。 ************************* 物語の中心はボストン郊外、Wellington大学学園都市に住むBelsey家の人々。無神論者で政治的に…

『図書館の魔女』高田大介

講談社文庫 海峡地域の盟主、一ノ谷の王宮の傍らにそびえる「高い塔」。それは史上最古の図書館だ。高い塔は世界の知が集積する場所であるのみならず、国内外で重要な政治的役割も果たす。先代の「図書館の魔術師」タイキは叡智をもって知られ、第三次同盟市…

『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』ホルヘ・ルイス・ボルヘス&アドルフォ・ビオイ=カサーレス作 木村榮一訳

白水uブックス ボルヘスとビオイ=カサーレスの二人が意気投合してH・ブストス=ドメックの名前で書いた、風変わりな探偵小説の連作短編集。 探偵を務めるのは囚人イシドロ・パロディ。彼は理髪店を営んでいたが、殺人の濡れ衣を着せられて有罪判決を受け、…

『ハワーズ・エンド』E・M・フォースター作 浦野郁訳

光文社古典新訳文庫 ********** シュレーゲル家のマーガレットとヘレンの姉妹は、弟のティビーと三人でロンドンの「ウィカム・プレイス」に住んでいる。両親は既に他界しているが、不労所得があるおかげで余裕のある暮らしぶりだ。教養があり、コンサートや…

2025年 読書振り返り

年の前半は腰を痛めた。あまり動けないからゆっくり本を読もうと思ったけれど甘かった。体の具合がいまひとつだと本に集中できない。 年の後半は身内に不幸があった。しばらく実家にいて日中は諸々の手続きで慌ただしいものの、夜は時間があるので本を読もう…

『火星の人(上・下)』アンディ・ウィアー作 小野田和子訳

ハヤカワ文庫 ※なぜか間違って記事を削除してしまったので再掲。 夏に読んだSFの感想を地道に続けている。 他の作品を読むつもりが、アンディ・ウィアー作品がセールになっていたので予定を変更して「アンディ・ウィアーの夏」を送ることになった。今回は彼…

『アルテミス(上・下)』アンディ・ウィアー作 小野田和子訳

ハヤカワ文庫 「アンディ・ウィアーの夏」、最後は本作。 ********** 舞台は月面都市アルテミス。 26歳のジャズは6歳の時父親とアルテミスに来て以来ここで暮らしている。ジャズは頭が良いが10代の頃に色々とやらかして真面目な溶接工である父親と折り合いが…

『プロジェクト・ヘイル・メアリー(上・下)』アンディ・ウィアー作 小野田和子訳

早川書房 主人公は、目が覚めると見知らぬ場所にいて、記憶も失っていた。そこは隔離された病院のようなところで、コンピューターに制御され、ロボットアームが自分の世話をしている。さらに、同じ部屋で二人の人間がそれぞれのベッドの上でミイラ化していた…

『システム・クラッシュ(マーダーボット・ダイアリー)』マーサ・ウェルズ作 中原尚哉訳

創元推理文庫 もう世の中はクリスマス・シーズンに移ろうとしていて今更感が満載だけれど、「夏はSFを読もう2025」企画の第一弾はマーダーボット・ダイアリー・シリーズの最新作。時系列では長編『ネットワーク・エフェクト』の直後にあたり、舞台も同じ惑星…

『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン作 斎藤真理子訳

河出文庫 「作家のことば」にあるように、「親切な優しい表情で傷つけあう人々の時代」を描いた短編集。色々と理不尽な社会の中で、他人を傷つけ、他人に傷つけられながら暮らす人たちの物語。誰もが自分の人生を少しでも良くすることに精いっぱいで、打算で…

『Animal Farm』(動物農場)ジョージ・オーウェル

日本語版はさっと見た感じだと、ハヤカワepi文庫の山形浩生訳、岩波文庫の川端康雄訳、角川文庫の高畠文夫訳などがあるようだ。 ********** イングランドのManor Farm。農場主のMr. Jonesが眠りにつくころ、集まった動物たちに向かって雄豚の老Majorが演説す…

『Klara and the Sun』(クララとお日さま)カズオ・イシグロ

日本語訳は土屋政雄訳『クララとお日さま』がハヤカワepi文庫になっている。 物語の語り手はAF(Artificial Friend)のKlara。AFとは、学校に通わず自宅でリモート学習をする子供たちのお友達としての役割を果たす、AIを搭載したロボットだ。Klaraは最新型で…

『Brave New World』(すばらしい新世界)オルダス・ハクスリー

日本語訳は光文社古典新訳文庫の黒原敏行訳、ハヤカワepi文庫の大森望訳、講談社文庫の松村達雄訳など、複数出ている。 舞台は未来のWorld Stateの街、ロンドン。破壊的な9年戦争を経た人類は、ようやく安定した社会を手に入れていた。人間は人工子宮を使っ…

『The Bell Jar』(ベル・ジャー )シルヴィア・プラス

前に読んだエルナン・ディアズの『Trust』に「bell jar」という言葉が出てきて本作を思い出し、ちょっと読みたくなったので再読。以前に読んだのは日本語で、たぶん青柳祐美子訳の『ベル・ジャー』(河出書房新社)だったと思う。それは絶版になったようだけ…

『Trust』( トラスト ─ 絆/わが人生/追憶の記/未来 ─ ) エルナン・ディアズ

2023年ピューリッツァー賞フィクション部門受賞 日本語版は井上里訳『トラスト ─ 絆/わが人生/追憶の記/未来 ─ 』が早川書房から出ている。 邦訳の副題が示す通り、本作は四部に分かれている。各部はそれぞれ小説、自伝、回顧録、日記という体裁をとり、…

『How to Be Both』(両方になる)アリ・スミス

2015年女性小説賞受賞 日本語版は木原善彦訳『両方になる』が新潮クレストブックスから。 作品は二つのパートに分かれている。15世紀のイタリア人画家の一人称で書かれた「EYES」パートと、現代の少女の視点の「CAMERA」パート。 「EYES」パートは最初何が起きてい…

『Magpie Murders』(カササギ殺人事件)アンソニー・ホロヴィッツ

日本語版は創元推理文庫から『カササギ殺人事件』山田蘭訳が出ている。 もし未読でこれから読むつもりの場合、この先は読まない方がいいと思います。前知識ゼロの方が振り回されて楽しい。 冒頭は編集者と思われる人物の前書きで始まる。Alan Conway作『Magp…

『Half of a Yellow Sun』(半分のぼった黄色い太陽) チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

2007年 オレンジ賞(現女性小説賞)受賞 日本語版は、くぼたのぞみ訳『半分のぼった黄色い太陽』が河出書房新社から出ている。 1960年代のナイジェリア、ビアフラ戦争の前後を生きた人々の物語。タイトルの"Half of the Yellow Sun"は、僅か3年足らずの間だけ…

『The Princess Bride』(プリンセス・ブライド) ウィリアム・ゴールドマン

日本語版は佐藤高子訳『プリンセス・ブライド』(ハヤカワ文庫FT)が出ていたけれど、絶版なのかな。ロブ・ライナー監督で映画化された『プリンセス・ブライド・ストーリー』の方が有名かもしれない。 初版は1973年。私が読んだのは25周年記念バージョンで、続…

『Shuggie Bain』(シャギー・ベイン)ダグラス・スチュアート

2020年ブッカー賞受賞 日本語版は黒原敏行訳『シャギー・ベイン』が早川書房から出ている。 舞台は不況に喘ぐグラスゴー。冒頭1992年、17歳のShuggieはサウスサイドに部屋を借り、薄給のデリで働いている。そして物語は1980年代に遡り、アルコール依存症の母…

2024年 読書振り返り

今年読んだ本のリスト。リンクは感想に飛びます。 【洋書(英語)】 『Oryx And Crake』(オリクスとクレイク) 『The Year of the Flood』(洪水の年) 『Maddaddam』(マッドアダム) 『Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage』(イラクサ…

『老人ホーム 一夜の出来事』B・S・ジョンソン作 青木純子訳

東京創元文庫 タイトルから勝手に「老人ホームで殺人事件が起きて、一人一人その夜について証言する話」のようなものを想像していた。全然違った。 老人ホームの一夜を入居老人8人+寮母1人のそれぞれの視点から描く。何か事件が起きるわけではなく、彼らはい…

『すべての、白いものたちの』ハン・ガン作 斎藤真理子訳

河出文庫 著者自身の経験をベースにしたらしい小説で、短く美しい断章からなっている。詩で書かれた私小説、とでも言おうか。 ワルシャワの街はかつてナチに抵抗した見せしめとして、街の95%が破壊された。その瓦礫の上に、残った柱や壁の上に継ぎ足されて復…

『Stone Mattress』(老いぼれを燃やせ) マーガレット・アトウッド

日本語版は今年、鴻巣友季子訳『老いぼれを燃やせ』のタイトルで早川書房から出版された。何年か前にKindleで原書が安くなっていたので購入してずっと積んであったのだけれど、せっかくなのでこの機会に読むことにした。こういうきっかけでもなければなかな…