さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

洋書(英語)

『Maddaddam』(マッドアダム)マーガレット・アトウッド

マッドアダム三部作の最終作 本作はまだ日本語訳が出ていないようだ。今年(2024年)岩波書店から出版される予定らしい。 *追記 3月(かな?)に邦訳『マッドアダム』上下巻が林はる芽さんの翻訳で岩波書店から出たようなので、日本語タイトルを追記しまし…

『The Year of the Flood』(洪水の年)マーガレット・アトウッド

マッドアダム三部作の二作目 ネタバレしています。 Crakeが引き起こした「人類の終焉」を生き延びた二人の女性の視点で物語が進行する。それぞれが、現在のサバイバルの部分とそこに至る過去を思い返す部分があるのは前作のSnowman -Jimmyの時と似ている。ま…

『Oryx And Crake』(オリクスとクレイク)マーガレット・アトウッド

マッドアダム三部作の一作目。 ネタバレです。 アトウッドによる近未来ディストピア+ポスト・アポカリプス+創世記。 物語は、人類が滅びたと思われる世界で生き残ったSnowmanのサバイバルの日々の章と、彼が、自分の少年時代からアポカリプスに至るまでの…

『Something Wicked This Way Comes』(何かが道をやってくる)レイ・ブラッドベリ【再読】

高校生の時、読みまくったブラッドベリ。中でも本作は特別気に入っている作品だ。今でも、サーカス団が町にやってくる度にこの作品のことを思い出す。ブラッドベリの中で一冊だけ選ぶとすれば、本作と『10月はたそがれの国』のどちらかで迷って迷って、多分…

『Liberation Day』(未邦訳)ジョージ・ソーンダーズ

『十二月の十日』以来9年ぶりのジョージ・ソーンダーズの短編集。2022年に出版されて現時点(2023年12月)でまだ邦訳は出てないようだけど、そのうちきっと出るだろう。 ソーンダーズの作品は、ソーンダーズ節としか言いようのない味わいがあって大好きだ。 …

『The Queen’s Gambit』(クイーンズ・ギャンビット)ウォルター・テヴィス

Beth Harmanは8歳の時に事故で母親を亡くし、孤児院で生活することになった。用務員のShaibelさんが1人でチェスをする姿を見て興味を持ち、チェスを教えてもらうようになる。Bethは驚くほどのスピードで上達して才能を示すが、院内薬局から精神安定剤を盗も…

『LESS 』(レス)アンドリュー・ショーン・グリア

2018年ピューリッツァー賞フィクション部門受賞 Arthur Lessは50歳の誕生日を目前に控えたゲイの作家だ。9年間付き合った若い恋人(もどき)のFreddyが他の男と結婚することになり、心が沈んでいる。Freddyの結婚式に出席しない口実を作るため、そして50歳の…

『Summer』(夏)アリ・スミス

アリ・スミスの四季シリーズ最終作。 前作、前々作の感想はこちら。 suzynomad.hatenablog.com suzynomad.hatenablog.com 16歳のSacha Greenlawは環境問題や人権についての意識が高い。その弟で13歳のRobertは非常に優秀だが問題行動を繰り返している。二人…

『Spring』(春)アリ・スミス

アリ・スミスによる四季四部作の三作目。 前作『Winter』の感想はこちら。 RichardはTV・映画のディレクター。長年二人三脚でやってきた脚本家でソウルメイトと言えるPaddyを病で失い、その悲しみから立ち直れないでいる。現在他の脚本家と組んでいる仕事に…

『The Goldfinch』(ゴールドフィンチ)ドナ・タート

2014年ピューリッツァー賞受賞 冒頭、主人公Theoが何かに怯えながらアムステルダムのホテルに滞在している様子が描かれる。何らかの事件に関わっているようだ。 物語は彼が13歳の時のこと、最愛の母を失った爆弾テロ事件へと遡る。その日Theoは停学処分にな…

『The Sense of an Ending』(終わりの感覚)ジュリアン・バーンズ

2011年ブッカー賞受賞。ジュアン・バーンズはこれ以前に既に3回同賞のショートリスト入りをしていて、本作でようやく受賞を果たした。 物語は主人公Tonyの一人称で、二部構成になっている。 第一部では、Tonyが青春時代の記憶を語る。高校時代の友人たち、特…

『The Accidental Tourist』(アクシデンタル・ツーリスト)アン・タイラー

Maconはボルチモアに住む40代の中年男。『The Accidental Tourist』という旅行ガイドブックを書いている。対象読者は旅行を楽しみたい一般的なツーリストではなく、旅行なんて行きたくないのに仕事で已む無く行かざるを得ないビジネスマンだ。出来るだけ余計…

『Olive, Again』(オリーヴ・キタリッジ、ふたたび)エリザベス・ストラウト

『Olive Kitteridge』(オリーヴ・キタリッジの生活)の続編。 前作の感想はこちら 全体のメインはオリーヴでありながら、オリーヴが脇役だったり名前が出るだけの短編もある、という作りは前作と同様。オリーヴが70〜80代になっていて、年老いて行くことの意…

『Gilead』(ギレアド)マリリン・ロビンソン

アイオワ州の架空の小さな町Gilead。76歳の牧師John Amesは、67歳の時に35歳年下のLilaと出会って結婚し、息子を授かった。自分の死期が迫っていることを悟ったJohnは、まだ幼い息子が成人した時に読むようにと長い手紙を書き始める。前半は主に代々牧師を務…

『Cloud Atlas』(クラウド・アトラス)デイヴィッド・ミッチェル

ネタバレしてます。 “As if Art is the What, not the How!” 本作の登場人物の一人Timothy Cavendishの言葉だ。勿論反語的に使っていて、Artは”What”ではなく”How”だと言っているのだ。そして本作は”How”に非常にこだわった作品である。 物語は6つ。オムニバ…

『The Uncommon Reader』(やんごとなき読者)アラン・ベネット

ネタバレしてます。 エリザベス女王はある日飼い犬を追って行った先で、宮殿の厨房の出入口付近に停まっていた移動図書館に出くわす。読書とは縁のない人生を送ってきた女王だが、礼儀として本を一冊借りていく。それはかつて勲章を授けたアイヴィ・コンプト…

『Gone Girl』(ゴーン・ガール)ギリアン・フリン

ニックとエイミーの夫婦はニューヨークに住んでいたが、二人ともライターの職を失って、2年前ニックの故郷であるミズーリ州に移住した。外からは理想的な夫婦に見えた二人の関係は問題を孕んでいた。そして5回目の結婚記念日にエイミーは突如姿を消す。しか…

『The Amazing Adventures of Kavalier & Clay』(カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険) マイケル・シェイボン

2001年ピューリッツアー賞受賞 1939年ナチスドイツ占領下のプラハ。マジック(脱出術)と美術を学んだユダヤ人青年ジョセフ・カヴァリエは、ユダヤ人コミュニティの先行きを危惧した家族の後押しを受け、ニューヨークの叔母の元へと亡命する。 紆余曲折を経…

『The Mirror & the Light』(鏡と光) ヒラリー・マンテル

ウルフ・ホール三部作の最終作 2020年ブッカー賞ロングリスト、2020年女性小説賞ショートリスト、2021年ウォルター・スコット賞 第一部の感想はこちら suzynomad.hatenablog.com 第二部の感想はこちら suzynomad.hatenablog.com ネタバレです 前作はアン・ブ…

『Florida』(丸い地球のどこかの曲がり角で)ローレン・グロフ

タイトル通り、舞台がフロリダ若くは主人公がフロリダ出身/在住という設定の作品を集めた短編集。作者のグロフ自身が夫の出身であるフロリダに移住している。 フロリダという地が単なる背景ではなく、その気候と自然がダイレクトに登場人物の心理や行動に強…

『Dune』(デューン/砂の惑星) フランク・ハーバート

西暦10191年、人類の築いた宇宙帝国は、皇帝、領家連合、航宙ギルドの三者の権力バランスの上に成り立っていた。 有力領家の一つであるアトレイデス家は、水と緑の惑星カラダンから惑星アラキスへの移封を命じられる。アラキスは砂漠に覆われているため別名…

『Winter』(冬)アリ・スミス

アリ・スミスのBrexit小説、四季シリーズ第二作。 ライター志望の青年アートはクリスマス直前に恋人のシャーロットと大喧嘩、彼女は怒って出て行ってしまう。クリスマス休暇に実家に行って母親にシャーロットを紹介する予定だったアートは、街で見かけたラッ…

『How to Read Literature Like a Professor』(大学教授のように小説を読む方法)トーマス・C・フォスター

私は何故文学作品を読むのか。何よりそれが喜びを与えてくれるから。作品世界の中に入り、笑い怒り悲しみ驚き考え込み、読み終えて本を閉じ周りを見渡すと、そこに変わらない世界があることに不思議な気持ちになる。でもそれと同時に世界と自分が読む前とは…

『Bring Up the Bodies』(罪人を召し出せ)ヒラリー・マンテル

ウルフ・ホール三部作の二作目。 2012年ブッカー賞、コスタ賞受賞 三部作の一作目の感想はこちら suzynomad.hatenablog.com ✴︎激しくネタバレしてます。 前作と同じスタイルだけど、前作に比べてフラッシュバックや脱線が少なく、話がほぼ一直線に進むのでか…

『Wolf Hall』(ウルフ・ホール)ヒラリー・マンテル

✴︎ネタバレ注意! 2009年のブッカー賞と全米批評家協会賞を受賞してBBCのドラマにもなった。更にガーディアン紙が選ぶ「21世紀の100冊」で堂々の第一位に輝く。まあ21世紀はまだ始まったばかりだから相当気の早いリストだけど。 舞台は16世紀イングランド、…