さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

『The Queen’s Gambit』(クイーンズ・ギャンビット)ウォルター・テヴィス

Beth Harman8歳の時に事故で母親を亡くし、孤児院で生活することになった。用務員のShaibelさんが1人でチェスをする姿を見て興味を持ち、チェスを教えてもらうようになる。Bethは驚くほどのスピードで上達して才能を示すが、院内薬局から精神安定剤を盗もうしていたところを見つかり、チェスを禁止されてしまう。以前は毎日孤児達に精神安定剤が与えられていたため、Bethは依存症になっていたのだ。

 

13歳の時にWheatley夫妻の養子として引き取られたBethは、初めてチェスのトーナメントに参加して優勝。それ以降次々にトーナメントに参加して名を上げていく。その一方で、Bethは精神安定剤に依存し続けていた。更に飲酒出来る年齢になると、度々飲み過ぎるようになってしまう。

 

 

 

ネタバレです

 

 

 

 

 

 

 

私は、チェスは駒の動かし方くらいしか分からないし、言葉でゲームの展開を説明されても全く盤面がイメージできないけれど、それでも充分楽しめた。

 

Bethは確かに精神安定剤&アルコール中毒ではあるけど(飲む時の量とスピードが尋常じゃない!)自分で問題を自覚して、必要な時に自分でストップをかけたり、本当にマズいと思った時に適切な人に助けを求めることが出来るあたり、非常に聡明だ。

 

最初は今一つ捉え所がなくて信用できなさそうに見えた養母のWheatly夫人が、意外にもBethといいコンビになる。お金に困っていたからBethの獲得した賞金を自分で管理するとか言い出すんじゃないかと心配したら、エージェント手数料10%を提案したから笑ってしまった。亡くなった時は私も寂しくなった。

 

用務員のShaibelさんのエピソードは胸を打つ。無口で無愛想だけど、きっとずっとBethのことを気にかけてるんだろうな、と予想した通りの展開ではあるけれど、それでも泣ける。Shaibelさん自身は彼女がお金を返さなかったことを怒ってはいないだろうけれど、やはり借りたお金はきちんと返すべし。

 

米国人作家が冷戦下のソ連の人々を描いているのに、彼らへの眼差しが優しく感じられる。チェス・プレイヤーの目線で描かれているからだろうか。ソ連の一般市民のチェスへの関心の高さ、レベルの高さ、グランドマスター達への賞賛とリスペクト具合など、米国とは対照的だ。一番好きなシーンは、Bethが散歩中に公園で地元のおじさん達が大勢集まってチェスをしているところに出くわし、彼らがBethに気がついて大喜びで取り囲んだところ。国も世代も超えてチェスが人を結びつけることを示す瞬間だった。