さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

読書レビュー

『República luminosa』(きらめく共和国)アンドレス・バルバ

熱帯の町San Cristóbalに何処からともなく現れた子供たち。彼らは奇妙な言葉を話し、子供らしく遊ぶ一方で、盗みを働き暴力を振るった。そしてある時32人の子供たちは一斉に死んでしまった。 その22年後、市の社会福祉課長としてこの事件を間近に見た主人公…

『巨匠とマルガリータ(下)』ミハイル・ブルガーコフ

水野忠夫訳 岩波文庫 ネタバレです。 第二部に入るとガラリと様相が変わる。遂にマルガリータが舞台中央に登場し、彼女の愛と冒険の物語が中心となる。 巨匠は心を病んで病院に入っているが、マルガリータはそれを知らない。彼と再会する為に、マルガリータ…

『巨匠とマルガリータ(上)』ミハイル・ブルガーコフ

水野忠夫訳 岩波文庫 うわー、面白い!想像してたのと全く違った。 まだ上巻読んだだけなので、とりあえずの感想を。 タイトルになっている巨匠もマルガリータも一向に出てこない。巨匠が登場したのが450ページ近い第一部の半ばをとうに過ぎた第13章270ペー…

『Maddaddam』(マッドアダム)マーガレット・アトウッド

マッドアダム三部作の最終作 本作はまだ日本語訳が出ていないようだ。今年(2024年)岩波書店から出版される予定らしい。 *追記 3月(かな?)に邦訳『マッドアダム』上下巻が林はる芽さんの翻訳で岩波書店から出たようなので、日本語タイトルを追記しまし…

『The Year of the Flood』(洪水の年)マーガレット・アトウッド

マッドアダム三部作の二作目 ネタバレしています。 Crakeが引き起こした「人類の終焉」を生き延びた二人の女性の視点で物語が進行する。それぞれが、現在のサバイバルの部分とそこに至る過去を思い返す部分があるのは前作のSnowman -Jimmyの時と似ている。ま…

『Oryx And Crake』(オリクスとクレイク)マーガレット・アトウッド

マッドアダム三部作の一作目。 ネタバレです。 アトウッドによる近未来ディストピア+ポスト・アポカリプス+創世記。 物語は、人類が滅びたと思われる世界で生き残ったSnowmanのサバイバルの日々の章と、彼が、自分の少年時代からアポカリプスに至るまでの…

2023年 読書振り返り

2023年 読書振り返り 今年読んだ本のリスト 【洋書(英語)】 『Cloud Atlas』(クラウド・アトラス)デイヴィッド・ミッチェル 『Gilead』(ギレアド)マリリン・ロビンソン 『Olive, Again』(オリーヴ・キタリッジ、ふたたび)エリザベス・ストラウト 『T…

『歩道橋の魔術師』呉明益

河出文庫 天野健太郎訳 初めての台湾文学。著者の作品は既に何冊か翻訳されていて高い評価を受けているようだ。 これは、かつて実際に台北にあった巨大なショッピングモール「中華商場」を舞台にした連作短編集で、10編+単行本未収録1編の全11編が収録され…

『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ

雨沢泰訳(英語からの重訳) 河出文庫 読みたいのに絶版で残念だとずっと思っていたら、何と文庫が出版されていた!河出書房新社さん、ありがとう!河出書房新社は面白い海外文学をどんどん出版してくれるから大好きだ。私の本棚は河出文庫とハヤカワepi文庫…

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』小野寺拓也、田野大輔

岩波ブックレット そもそも私はナチについての知識が殆どない。強制収容所作ってユダヤ人や障害者や同性愛者を迫害したり虐殺したりした、という極めて大雑把な認識しかない。「良いこと」と言われていることがどんなことかも全く知らないという無知ぶり。欧…

『Something Wicked This Way Comes』(何かが道をやってくる)レイ・ブラッドベリ【再読】

高校生の時、読みまくったブラッドベリ。中でも本作は特別気に入っている作品だ。今でも、サーカス団が町にやってくる度にこの作品のことを思い出す。ブラッドベリの中で一冊だけ選ぶとすれば、本作と『10月はたそがれの国』のどちらかで迷って迷って、多分…

『Liberation Day』(未邦訳)ジョージ・ソーンダーズ

『十二月の十日』以来9年ぶりのジョージ・ソーンダーズの短編集。2022年に出版されて現時点(2023年12月)でまだ邦訳は出てないようだけど、そのうちきっと出るだろう。 ソーンダーズの作品は、ソーンダーズ節としか言いようのない味わいがあって大好きだ。 …

『やし酒飲み』エイモス・チュツオーラ

岩波文庫 土屋哲訳 ただひたすらやし酒を飲むだけの人生を送る主人公。大金持ちの父親は彼にやし園を贈り、彼専属にやし酒造りの名人を雇った。ある日そのやし酒名人が事故で死んでしまう。主人公は「死者はこの世のどこかに住んでいる」という言い伝えを思…

『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ

ちくま文庫 斎藤真理子訳 キム・ジヨン氏は33歳。IT関連企業に勤める夫チョン・デヒョン氏との間に一歳の娘がいる。キム・ジヨン氏も以前は会社勤めをしていたが出産を機に退職、夫の仕事が多忙なため育児はワンオペだ。そんなキム・ジヨン氏に「異常な症状…

『The Queen’s Gambit』(クイーンズ・ギャンビット)ウォルター・テヴィス

Beth Harmanは8歳の時に事故で母親を亡くし、孤児院で生活することになった。用務員のShaibelさんが1人でチェスをする姿を見て興味を持ち、チェスを教えてもらうようになる。Bethは驚くほどのスピードで上達して才能を示すが、院内薬局から精神安定剤を盗も…

『ヘヴン』 川上未映子

講談社文庫 「僕」は中学二年生。斜視で全てが二重に見え、うまく距離感がつかめない。クラスメイトからの酷いいじめに耐える日々を送っていた。ある日、筆箱の中に「わたしたちは仲間です」と書かれた手紙が入っているのを見つける。それはクラスでいじめら…

『LESS 』(レス)アンドリュー・ショーン・グリア

2018年ピューリッツァー賞フィクション部門受賞 Arthur Lessは50歳の誕生日を目前に控えたゲイの作家だ。9年間付き合った若い恋人(もどき)のFreddyが他の男と結婚することになり、心が沈んでいる。Freddyの結婚式に出席しない口実を作るため、そして50歳の…

『コンビニ人間』村田沙耶香

文春文庫 第155回芥川賞受賞 ネタバレです。 古倉恵子は幼い頃から「異質」だった。世間一般の基準というものが分からず、何でも文字通りに解釈し、自分の行動が何故問題を引き起こすのかわからない。そのため極力口をきかず、あまり他人と関わらないように…

『Summer』(夏)アリ・スミス

アリ・スミスの四季シリーズ最終作。 前作、前々作の感想はこちら。 suzynomad.hatenablog.com suzynomad.hatenablog.com 16歳のSacha Greenlawは環境問題や人権についての意識が高い。その弟で13歳のRobertは非常に優秀だが問題行動を繰り返している。二人…

『Spring』(春)アリ・スミス

アリ・スミスによる四季四部作の三作目。 前作『Winter』の感想はこちら。 RichardはTV・映画のディレクター。長年二人三脚でやってきた脚本家でソウルメイトと言えるPaddyを病で失い、その悲しみから立ち直れないでいる。現在他の脚本家と組んでいる仕事に…

『The Goldfinch』(ゴールドフィンチ)ドナ・タート

2014年ピューリッツァー賞受賞 冒頭、主人公Theoが何かに怯えながらアムステルダムのホテルに滞在している様子が描かれる。何らかの事件に関わっているようだ。 物語は彼が13歳の時のこと、最愛の母を失った爆弾テロ事件へと遡る。その日Theoは停学処分にな…

『The Sense of an Ending』(終わりの感覚)ジュリアン・バーンズ

2011年ブッカー賞受賞。ジュアン・バーンズはこれ以前に既に3回同賞のショートリスト入りをしていて、本作でようやく受賞を果たした。 物語は主人公Tonyの一人称で、二部構成になっている。 第一部では、Tonyが青春時代の記憶を語る。高校時代の友人たち、特…

『The Accidental Tourist』(アクシデンタル・ツーリスト)アン・タイラー

Maconはボルチモアに住む40代の中年男。『The Accidental Tourist』という旅行ガイドブックを書いている。対象読者は旅行を楽しみたい一般的なツーリストではなく、旅行なんて行きたくないのに仕事で已む無く行かざるを得ないビジネスマンだ。出来るだけ余計…

『Canto jo i la muntanya balla』(When I Sing, Mountains Dance)Irene Solà

この作品は2019年に初版が発行されてから地元で数々の賞を受賞し、2022年末時点でカタルーニャ語版だけで6万6千部(16刷達成)、スペイン語版も2万3千部売れていて、かなり話題になったようだ。約20ヶ国語に訳されており、2022年にthe Guardianなどでも好意…

『Olive, Again』(オリーヴ・キタリッジ、ふたたび)エリザベス・ストラウト

『Olive Kitteridge』(オリーヴ・キタリッジの生活)の続編。 前作の感想はこちら 全体のメインはオリーヴでありながら、オリーヴが脇役だったり名前が出るだけの短編もある、という作りは前作と同様。オリーヴが70〜80代になっていて、年老いて行くことの意…

『オリーヴ・キタリッジの生活』エリザベス・ストラウト【再読】

小川高義訳 ハヤカワepi文庫 オリーヴ・キタリッジの続編を読む予定なので、復習の為に再読。初めてのエリザベス・ストラウトがこの本で、一読して大好きになった。ゆっくり味わいながら、何度でも読みたい連作短編集。 この本が魅力的なのは、オリーヴとい…

『El matrimonio de los peces rojos』(赤い魚の夫婦)グアダルーペ・ネッテル

昨年から極めて地味に亀の歩みで進めている「今をときめくラテンアメリカ女性作家を読もう」キャンペーン、今回はメキシコの作家グアダルーペ・ネッテル。既に2021年に宇野和美氏の訳で日本語版も出ていて評判が良いようで、日本翻訳大賞の最終候補にもなっ…

『Gilead』(ギレアド)マリリン・ロビンソン

アイオワ州の架空の小さな町Gilead。76歳の牧師John Amesは、67歳の時に35歳年下のLilaと出会って結婚し、息子を授かった。自分の死期が迫っていることを悟ったJohnは、まだ幼い息子が成人した時に読むようにと長い手紙を書き始める。前半は主に代々牧師を務…

『ミドルマーチ4』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 一巻の感想 二巻の感想 三巻の感想 ネタバレです。 とうとう最終巻。 バルストロードは暗い過去をネタにラッフルズが強請ってくる為、恐怖のどん底に突き落とされる。そしてラッフルズが病気に倒れると、彼の死を願うバルス…

『ミドルマーチ3』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 一巻の感想 suzynomad.hatenablog.com 二巻の感想 suzynomad.hatenablog.com ネタバレです。 カソーボンが死んだ。人生かけていた論文があまり見込みのないものだということに薄々気づきつつ、それすら生きているうちにまと…