さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

『Summer』(夏)アリ・スミス

アリ・スミスの四季シリーズ最終作。

前作、前々作の感想はこちら。

 

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16歳のSacha Greenlawは環境問題や人権についての意識が高い。その弟で13歳のRobertは非常に優秀だが問題行動を繰り返している。二人を育てる母親Graceは元女優で、別れた夫が隣家で恋人と暮らしている。

 

Greenlaw一家三人はひょんなことから、Artと元恋人のCharlotteに出会う。Artは亡くなった母親Sophiaの遺言を果たすために、石の塊(バーバラ・ヘップワースの彫刻の頭部)をDanielに返しに行くところだった。彼らは、Danielの住むサフォークへ一緒に旅することになる。

 

物語の進行とは別に、Danielが夢現で思い出す過去の出来事が度々語られる。第二次世界大戦時、イギリスに住むドイツ系ユダヤ人のDanielは敵性外国人として父親と共に収容所に入れられていた。この理不尽さは現代の移民収容所と重なり合う。一方Danielの最愛の妹Hannahは遠く離れた別の場所で兄を想いながら、自身が生き延び、また同胞を救う為に必死で困難な日々を生きていた。

 

 

 

ネタバレです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一世界大戦からCovid19パンデミックに至る長い年月を生きるDanielが全てを繋ぐ鍵になっている。彼は、

Autumn』のElisabethの隣人で友人であり、

Winter』のSophiaの一時期の恋人でArtの父親であり、

Spring』のPaddyとコンサートで隣り合わせた人物(かつ束の間の恋人?)であり(そのPaddyの親友RichardElisabethの父親だ)

Summer』のGreenlaw姉弟の曾祖母Hannahの兄である。(そうするとArtGreenlaw姉弟も遠い親戚ということになる)

 

DanielRobertと会った時、妹のHannahが現れたと勘違いするのは、そういう訳なのだろう。Graceは若い頃にシェイクスピア『冬物語』の王妃ハーマイオニーを演じたけれど、石像の姿のハーマイオニーが動き出してレオンティーズ王と再会を果たしたように、長い長い時を経てDinielHannahは奇跡のような「再会」を果たすのだ。

 

でも当事者の誰もこういったことを知らずにいる。ここまでの偶然は現実に起こり得ないかもしれないけれど、たとえ血の繋がりがなかったとしても、人は皆何かしらどこかで繋がっているのだ。いくら分断しているように見えても、分断しようとしても、繋がっているのだ。

 

移民収容施設の植え込みがすぐに成長して絡み合い、一本一本の木の境目がわからなくなる。他の言語と相互に影響しあうことなく単独で存在する言語などないとCharlotteは言う。そんなちょっとしたエピソードや発言も皆「つながっている」というメッセージを発しているようだ。

 

これで四季シリーズは終了。なかなかに感慨深い。とにかくどの作品も内容盛り沢山で、何度読んでもその度に新たな発見がありそうで、また読み返さなければと思っている。