さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

和書

『巨匠とマルガリータ(下)』ミハイル・ブルガーコフ

水野忠夫訳 岩波文庫 ネタバレです。 第二部に入るとガラリと様相が変わる。遂にマルガリータが舞台中央に登場し、彼女の愛と冒険の物語が中心となる。 巨匠は心を病んで病院に入っているが、マルガリータはそれを知らない。彼と再会する為に、マルガリータ…

『巨匠とマルガリータ(上)』ミハイル・ブルガーコフ

水野忠夫訳 岩波文庫 うわー、面白い!想像してたのと全く違った。 まだ上巻読んだだけなので、とりあえずの感想を。 タイトルになっている巨匠もマルガリータも一向に出てこない。巨匠が登場したのが450ページ近い第一部の半ばをとうに過ぎた第13章270ペー…

『歩道橋の魔術師』呉明益

河出文庫 天野健太郎訳 初めての台湾文学。著者の作品は既に何冊か翻訳されていて高い評価を受けているようだ。 これは、かつて実際に台北にあった巨大なショッピングモール「中華商場」を舞台にした連作短編集で、10編+単行本未収録1編の全11編が収録され…

『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ

雨沢泰訳(英語からの重訳) 河出文庫 読みたいのに絶版で残念だとずっと思っていたら、何と文庫が出版されていた!河出書房新社さん、ありがとう!河出書房新社は面白い海外文学をどんどん出版してくれるから大好きだ。私の本棚は河出文庫とハヤカワepi文庫…

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』小野寺拓也、田野大輔

岩波ブックレット そもそも私はナチについての知識が殆どない。強制収容所作ってユダヤ人や障害者や同性愛者を迫害したり虐殺したりした、という極めて大雑把な認識しかない。「良いこと」と言われていることがどんなことかも全く知らないという無知ぶり。欧…

『やし酒飲み』エイモス・チュツオーラ

岩波文庫 土屋哲訳 ただひたすらやし酒を飲むだけの人生を送る主人公。大金持ちの父親は彼にやし園を贈り、彼専属にやし酒造りの名人を雇った。ある日そのやし酒名人が事故で死んでしまう。主人公は「死者はこの世のどこかに住んでいる」という言い伝えを思…

『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ

ちくま文庫 斎藤真理子訳 キム・ジヨン氏は33歳。IT関連企業に勤める夫チョン・デヒョン氏との間に一歳の娘がいる。キム・ジヨン氏も以前は会社勤めをしていたが出産を機に退職、夫の仕事が多忙なため育児はワンオペだ。そんなキム・ジヨン氏に「異常な症状…

『ヘヴン』 川上未映子

講談社文庫 「僕」は中学二年生。斜視で全てが二重に見え、うまく距離感がつかめない。クラスメイトからの酷いいじめに耐える日々を送っていた。ある日、筆箱の中に「わたしたちは仲間です」と書かれた手紙が入っているのを見つける。それはクラスでいじめら…

『コンビニ人間』村田沙耶香

文春文庫 第155回芥川賞受賞 ネタバレです。 古倉恵子は幼い頃から「異質」だった。世間一般の基準というものが分からず、何でも文字通りに解釈し、自分の行動が何故問題を引き起こすのかわからない。そのため極力口をきかず、あまり他人と関わらないように…

『オリーヴ・キタリッジの生活』エリザベス・ストラウト【再読】

小川高義訳 ハヤカワepi文庫 オリーヴ・キタリッジの続編を読む予定なので、復習の為に再読。初めてのエリザベス・ストラウトがこの本で、一読して大好きになった。ゆっくり味わいながら、何度でも読みたい連作短編集。 この本が魅力的なのは、オリーヴとい…

『ミドルマーチ4』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 一巻の感想 二巻の感想 三巻の感想 ネタバレです。 とうとう最終巻。 バルストロードは暗い過去をネタにラッフルズが強請ってくる為、恐怖のどん底に突き落とされる。そしてラッフルズが病気に倒れると、彼の死を願うバルス…

『ミドルマーチ3』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 一巻の感想 suzynomad.hatenablog.com 二巻の感想 suzynomad.hatenablog.com ネタバレです。 カソーボンが死んだ。人生かけていた論文があまり見込みのないものだということに薄々気づきつつ、それすら生きているうちにまと…

『ミドルマーチ2』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 一巻の感想はこちら suzynomad.hatenablog.com どんどん盛り上がってきたよ! この巻ではフェザストーン老人の遺産相続をめぐる騒動、カソーボン夫妻の関係悪化及びドロシアとラディスローの接近、リドゲイトとロザモンドの…

『ミドルマーチ1』ジョージ・エリオット

廣野由美子訳 光文社古典新訳文庫 取り敢えずまだ1巻目なので、簡単な覚え書きを。 久しぶりのヴィクトリア調文学。私はこの時代のイギリス小説がかなり好きで一時期かなりハマって読んでいたのに、傑作と名高いこの作品は未読だった。翻訳者の廣野由美子氏…

『献灯使』多和田葉子

講談社文庫 2018年全米図書賞翻訳部門受賞 東日本大震災、特に原発事故に触発されて書かれた物語集。 献灯使 義郎と曾孫の無名は東京西部の仮設住宅で暮らしている。何か酷い厄災が起きて東京中心部が汚染され、人が住めなくなっているようだ。鎖国して外国…

『ガルヴェイアスの犬』ジョゼ・ルイス・ペイショット

木下眞穂訳 新潮クレスト・ブックス 第5回日本翻訳大賞受賞 1984年1月のある夜、ポルトガルの小さな村ガルヴェイアスに、宇宙の果てから「名のない物」が落ちてきた。コルティソの原っぱに爆音と共に落ちてきたその巨大な物は、高熱と強烈な硫黄の匂いを発し…

『批評の教室』北村紗衣

筑摩新書 初心者を対象とした批評入門書。批評を「精読する・分析する・書く」の3つのステップに分け、各ステップをどのように進めるのか具体的に説明している。 精読では、出てくるものには全て意味があることを前提に細かいところまで注意して読むこと、…

『おばちゃんたちのいるところ』松田青子

中公文庫 2021年世界幻想文学大賞(短編部門)受賞 歌舞伎や落語などの、日本で昔から語られてきた古典や怪談話をモチーフにした連作短編集。古い物語だと女性がやたらに酷い目にあったり、悪女に仕立て上げられたりする事も多いけれど、そういった物語に別…

『闇の奥』ジョゼフ・コンラッド

光文社古典新訳文庫 黒原敏行訳 ✴︎ネタバレしてます 船乗りのマーロウは蒸気船の船長としてアフリカの奥地へ赴任する。そこには人を寄せ付けない沈黙の密林が暗く圧倒的な力を有して周囲を取り巻いていた。その地でマーロウは、奥地の出張所にいるクルツとい…