講談社文庫
2018年全米図書賞翻訳部門受賞
東日本大震災、特に原発事故に触発されて書かれた物語集。
献灯使
義郎と曾孫の無名は東京西部の仮設住宅で暮らしている。何か酷い厄災が起きて東京中心部が汚染され、人が住めなくなっているようだ。鎖国して外国語は禁止され、インターネットも電話も自家用車もない。老人は元気で全く死にそうになく、子供たちは体が脆くいつまで生きられるか分からない…といった背景が登場人物の日々の合間に見え隠れする。しかし監視社会のようでありながら、権力機構の姿が全く見えないのが不気味だ。
深刻な話である一方、言葉遊びが多くて、それがかなり笑える。義郎と無名の関係は暖かく、新しい世代を代表する無名はしなやかで、それが暗い社会の物語の中で柔らかい光になっている。
しかし、これを英語に訳すのは恐ろしく大変そうだ…。
韋駄天どこまでも
こんな風に漢字で遊ぶ小説は初めてで、楽しんだ。飄々として軽やかな文章だけれど、やはり汚染された日本の物語。
不死の島
再度の大地震と原発事故で壊滅的な被害を受けた日本。献灯使で描かれた状況を説明する作品のようだけれど、本作品の方が先に書かれ、そこから少し見方を変えて献灯使が書かれたようだ。
彼岸
爆弾見本を積んで飛行中の戦闘機が事故で原子力発電所の上に落ちる。放射線汚染から逃れようと多くの日本国民が難民として中国へ向かう。「男らしさ」への痛烈な皮肉が効いている。
動物たちのバベル
戯曲。大洪水で人類が滅亡した後、動物たちが集まって議論する。人類への批判が耳に痛い。