中公文庫
2021年世界幻想文学大賞(短編部門)受賞
歌舞伎や落語などの、日本で昔から語られてきた古典や怪談話をモチーフにした連作短編集。古い物語だと女性がやたらに酷い目にあったり、悪女に仕立て上げられたりする事も多いけれど、そういった物語に別の視点から結構ツイストを効かせて、現代的な新しい物語を作り上げている。
同じ組織や登場人物が複数の作品に出てきたりして各作品がゆるく繋がっている。語り口は軽やかでリズムが良く、ユーモアに富んでいて読み易くて楽しい。でも世の中の、特に女性の扱いに対しての「おかしいだろ、それ」をきっちりと批判している。そのバランスがいいなと私は思った。
以下、各作品ごとの一言感想
みがきをかける
典型的な関西のうるさいおばちゃんがいい。終盤の展開が全く予想外で笑う。主人公の言葉が東京弁から関西弁に変わったりするあたり訳すの大変そうだ。
牡丹柄の灯籠
米子と露子のセールスコンビの不気味なボケぶりに笑った。元ネタの牡丹灯籠を知っているとより笑えるかも。この本の別の短編には、彼女たちが時に度を越してしまう云々と書かれていたけど…いいぞ、もっとやれ。
ひなちゃん
繁美とひなちゃんの関係が素敵。お隣の喜さんの反応も良い。
悋気しい
嫉妬を全面的に肯定していて清々しい。
おばちゃんたちのいるところ
第一話に出てきたおばちゃんの息子・茂のお話。お墓参りのエピソードに思わずニヤリ。
愛してた
汀さん、能力が多岐に渡っていてびっくりする。
クズハの一生
社会に求められる通りの王道の人生を歩んできたけれど…。
彼女ができること
底意地の悪い社会で生きるシングルマザーの苦しさ。「彼女」はそっと手を差し伸べる。
燃えているのは心
現代のお七は、燃え盛る心を書に込める。
私のスーパーパワー
ルッキズムの愚かしさよ。微妙に一昔前っぽいノリのエッセイ形式がジワジワくる。
最後のお迎え
エレガントな座敷童。汀さんの生い立ちが少し分かる。
「チーム・更科」
「我が社は接待のような思考回路が停止したことはしない」が繰り返されているあたり笑える。
休戦日
ガムちゃんが出動しなくてもよくなる日が来るといいのに…。
楽しそう
それぞれが自由で、ちょびっとだけ気にかけながらも互いに干渉しなくて、楽しそうにやっている。それが一番。
エノキの一生
エノキの言葉に心から頷く。木だけど。
菊枝の青春
素直で爽やかなお話。心が温まる。ちょっと姫路の穴場案内みたいなところもあって面白い。
下りない
茂もその後元気にやってるようで何より。最後のシーン、姫路城と富姫のイメージが浮かび上がってくるようで、とても好き。