さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

『Canto jo i la muntanya balla』(When I Sing, Mountains Dance)Irene Solà

この作品は2019年に初版が発行されてから地元で数々の賞を受賞し、2022年末時点でカタルーニャ語版だけで66千部(16刷達成)、スペイン語版も23千部売れていて、かなり話題になったようだ。約20ヶ国語に訳されており、2022年にthe Guardianなどでも好意的な批評がされている。

 

作者は1990年生まれ。本作の前に既に詩集と長編を一冊ずつ出版しており、そちらも複数の賞を受賞しているようだ。

 

カタルーニャ語の本を読むのは久しぶりで、正直かなり疲れた。文学を読むには語彙が不足している事を痛感する。特に魔女ゴーストの章は読み難くキツかった。でも読み進むにつれてスピードも上がり詩的な文章も楽しめたので、やはり読む頻度を増やすことが大事。

 

内容はというと、ポリフォニックな作品という謳い文句通りの作品だ。全体が大きく四つのパートに分かれ、各パートの中は45つの短い章に分かれている。章ごとに話者が異なっていて、しかも話者は人間だけではない。雲(雨雲)、死者、キノコ、ヘラジカなどが話者になる。ピレネー山脈に息づく人と自然が一体となって物語を形作っているようだ。

 

核となるのは山に暮らすSióMiaHilariの一家の物語だ。山の大地は、戦争も記憶も人の様々な想いも全て内包している。しかしそれも山全体の一部でしかない。人間も動植物も自然も、生者も死者も、山にいるもの全てが等しく存在し、繋がっている。

 

私は特に「死者のラッパ」という名のキノコ(日本語ではクロラッパ茸かな?)が語る章がとても気に入った。山の自然が互いにつながり命が連綿と続いていく様が感じられる。それからHilariが語る章は詩が楽しめて良かった。

 

日本語訳は出るかなあ。長年に渡ってカタルーニャ文学の紹介と翻訳をされた田澤耕氏が亡くなられたのは本当に残念だ心からご冥福を。