河出文庫
「作家のことば」にあるように、「親切な優しい表情で傷つけあう人々の時代」を描いた短編集。色々と理不尽な社会の中で、他人を傷つけ、他人に傷つけられながら暮らす人たちの物語。誰もが自分の人生を少しでも良くすることに精いっぱいで、打算で誰かをさらりと傷つけ、その事実に気づいていない、もしくは知りつつもそこから目を逸らすようにして生きている。
ほのかな苦みや悲しみが残る、というか読んでいる自分自身にもうっすらと傷が残るような作品集だ。
どこか少し日本を思い出させる、でもやはりどこか少し違う。韓国の小説を読むと、そう感じることが多くて、面白いなと思う。
訳者あとがきで韓国での呼称の意味や不動産事情、階級差などについての説明があるので理解が深まる。それにしても、韓国の不動産システムが怖すぎる…。
「ミス・チョと亀と僕」
「僕」が心の奥にしまっている、まだ起きていないできごと・永遠に起きないできごとについて、思いを巡らさずにはいられない。とても好きな作品だ。
「何でもないこと」
日々の雑事に追われ、日常を維持することに執着する中で、都合の悪い存在の赤ん坊までもが「何でもないこと」化されていく残酷さ。
「私たちの中の天使」
ミステリー風。いつか来るかもしれない断罪の時を待ちながら生きていく、そのことが既に断罪になっている。
「ずうっと、夏」
眩しく切ない南国青春物語。主人公は友情をきっかけに自分自身のコアな部分に触れたのではないだろうか。思春期の心の動きが非常に説得力を持って描かれている。彼女たちの未来に幸多かれと願わずにはいられない。
「夜の大観覧車」
状況を受け入れて、そういうものだと諦めて生活している。少しいつもと違うことをしてみても、ときめくことがあっても、結局味気ない日々に戻る。でも、ふと、なぜか前に進む力が生まれる瞬間もある。この作品も結構好きだ。
「引き出しの中の家」
不穏な、というか冷静に考えれば明らかにマズい流れになっているのに止められない。夫の言動のひとつひとつにイラっとさせられるけれど、彼もシステムの被害者だ、ともいえる。
「アンナ」
階級差、貧富の差から生まれる、人と人との関係のひずみが辛い。英語幼稚園のシステムにも社会が凝縮されているかのようだ。
「三豊百貨店」
もともと本短編集に収録された作品ではなく、日本語版のみの特別付録。実際に起きた三豊百貨店崩壊事故を題材にした自伝的作品。犠牲者は瓦礫の下に埋まり、生き延びた者は罪悪感の中で言葉を失う。