河出文庫
著者自身の経験をベースにしたらしい小説で、短く美しい断章からなっている。詩で書かれた私小説、とでも言おうか。
ワルシャワの街はかつてナチに抵抗した見せしめとして、街の95%が破壊された。その瓦礫の上に、残った柱や壁の上に継ぎ足されて復元されたのが現在のワルシャワだ。その街に滞在した「私」は、生後2時間で亡くなった姉のことを考える。もし彼女が生死の境目にいたその時、境界を越えてこちら側に来ていたら。「私」は自分の命と体を貸し出し、姉を蘇らせる。ワルシャワの街がそうしてきたように、命に命を継ぎ合わせる。白いものを託す。
読みながら涙が流れた。言葉が読んでいる自分の心に染み込むというか、こちらの心の深いところに直接入ってくるような感覚。美しく穏やかな言葉の背後に、命に対する深い思索や、真摯に言葉と向き合う姿勢が感じられる。自分自身を削って言葉を紡いでいるかのような。
感慨を覚えるのは、これが翻訳であるということ。作家の言葉そのものに力があるのだろうし、また翻訳がそれを確かに伝えているのだろう。素晴らしい翻訳作品だと思う。
この作品を読んだ日は、一日中思い返しては涙ぐんでいた。感想など書けそうな気がしなかった。どう書いても自分が感じたことを表現するのは不可能だから。それでも、ただ素晴らしかったという一言だけでも残しておきたいと思ってこれを書いている。
この作品に出会えて良かった。