さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

『Pájaros en la boca y otros cuentos』(口のなかの小鳥たち)サマンタ・シュウェブリン

アルゼンチン出身で現在はベルリン在住の作家サマンタ・シュウェブリンの短編集。日本語版は15の短編を収めた2009年版からの訳で、私が読んだのは更に7編加えて2017年に出版された版。中身の順序もちょっと違うみたい。英語版はまた少し違いがあって、『Mouthful of Birds』のタイトルで20編収録。2019年に国際ブッカー賞のロングリスト入りを果たした。

 

題材はバラエティに富んでいる。全体的に不条理な作品が多いけれど、現実的なものもあれば徹頭徹尾シュールなものもある。文章は比較的淡々としていて、割と洗練されたスタイルに思える。余計な説明が省かれていることで不穏さが一層際立ち、読後にじわりと怖くなる。個人的にはちょっとブラッドベリを思い出した。

 

以下、作品ごとの一言感想。

 

Irman(イルマン)

ちょっと薄気味悪くてシュール。彼の人生に思いを馳せる。

Conservas(保存期間)

子供を持つことの意味と影響について考えてしまう。

Mariposas (蝶)

とても短いけれど強く鮮やかな印象を残す作品。終わり方が完璧。

Pájaros en la boca(口のなかの小鳥たち)

生きた小鳥を食べ続ける娘と、面倒な事には向き合おうとしない父親。家から出ず窓から外を見つめ続ける娘の姿が小鳥と重なる。

Papá Noel duerme en casa(サンタがうちで寝ている)

子供の目から大人の修羅場を見るとちょっと笑える。

Mujeres Desesperadas(未収録)

異性は捨てるけど同性は助けるんだ。

El cavador(穴掘り男)

余計な説明のないところが一層不気味で良い。

Matar a un Perro(未収録)

動物に対する暴力は読むのがちょっと辛い。

Hacia la alegre civilización(未収録)

幸せそうな擬似家族の不気味さ。

Última vuelta(最後の一周)

読み終わってúltimaの意味を考えてゾッとする。こういうのが上手い。

Agujeros negros(未収録)

ナンダコレハ。シュールで訳がわからなくて笑っちゃう。

Mi hermano Walter(弟のバルテル)

鬱の弟に寄り添う異様に幸福な家族。そこに潜む崩壊の不安。

El hombre sirena(人魚男)

長く抑圧に晒されると、そこから抜け出すチャンスが来ても、どうしていいか分からなくなる。

La furia de las pestes(疫病のごとく)

寝た子を起こすな

Cabezas contra el asfalto(アスファルトに頭を叩きつけろ)

暴力と芸術と異文化間の溝。

La medida de las cosas(ものごとの尺度)

切ない

Bajo tierra(地の底)

消えていった子供たちの物語を話し終えた老人は

La pesada valija de Benavides(未収録)

ここでも暴力が芸術と結びつく。殺された女性が晒されて更に尊厳を奪われる恐ろしさよ。

Perdiendo velocidad(スピードを失って)

最後の一文にハッとさせられる作品。こういうの好き。

En la estepa(草原地帯)

これはまた別の意味で子供を持つことについて考えさせられる。

Oligiris(未収録)

都会に出て働く、孤独な名もなき二人の女性の道が交わる。どれほど多くの「彼女たち」がいることだろう。

Un gran esfuerzo(未収録)

父親と息子の葛藤と癒しの物語。温かみがある作品でびっくりした。