さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

『Los peligros de fumar en la cama』(寝煙草の危険)マリアーナ・エンリケス

アルゼンチンの作家マリアーナ・エンリケスの最初の短編集。スペイン語の出版は2009年。2021年に英訳『The Dangers of Smoking in Bed』が出て、国際ブッカー賞のショートリスト入りを果たした。まだ日本語訳はないみたいだけど、エンリケスの別の短編集(『わたしたちが火の中でなくしたもの』)は訳されているから、こちらもそのうち出るかな?

 

全部で12編。若い女性が語り手又は主人公のものが多く、ゴースト、カニバリズム、呪術等のホラー・オカルト的な要素を取り入れつつ、暴力、貧困、子供や若者の失踪といったアルゼンチン社会の暗部を描くスタイル。日常の隙間から超自然的なものがふと顔を出して不穏な空気を醸し出す。身体の生々しさを感じさせるような描写で、悪臭や汚物もよく出てくる。

 

舞台はブエノスアイレスとかバルセロナ等の街が中心なのに、どこか土の匂いがするのは何故だろう。土着の慣習が出てくるせいなのか、悪臭汚物のせいなのか、それとも私がラテンアメリカに対して勝手に抱いている先入観のなせる技なのか。

 

全部が全部出来が良いというわけではないけれど、とても面白く読めた。時々アルゼンチン・スペイン語独特の語彙が分からなくて調べつつだったけど、文章は読みやすい。もう一つの短編集も読みたいな。

 

特に気に入ったのは最初の作品『El desentierro de Angelita英語版: Angelita Unearthed ちっちゃな天使を掘り返す)。主人公のゴーストへの対応が逞しくて実際的で笑っちゃう。それから臭くて汚い『El carrito( The Cart ショッピングカート )も良かった。一番長い『Chicos que vuelven( Kids Who Come Back 戻ってくる子供たち)はちょっとゾッとする終わり方で好み。

 

追記

国書刊行会から宮﨑真紀氏訳で翻訳が出版されたようなので、日本語タイトルも加えました。装丁が素敵。