さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

『ジェーン・エア』ナショナル・シアター@home


Jane Eyre

2015

National Theatre & Bristol Old Vic

Sally Cookson演出

 

私の住む街には劇場が多くて、歩いて行けるところだけでも4つある。ファミリー向けのプロダクションも多くて質が高いから、以前は子供を連れてよく行っていた。でも大人向けのものは開演時刻が夜9時や10時と遅いこともあって殆ど行っていない。元々頻繁に舞台を見に行く方ではなかったから。

 

ロックダウン期間にロンドンのナショナル・シアターが作品を無料配信し始めたので何の気なしに観てみたら、これがとても良くて驚いた。作品そのものもだし、カメラワークも素晴らしくて非常に見やすい。家族全員家に居たせいで普段より大忙しだったロックダウン中のささやかな楽しみになった。結局殆どの作品を見て楽しんだので御礼に寄付しようとしたけれど、カードが弾かれしまい断念。そうしたら何とNational Theatre at Homeの名前で有料配信サービスを開始するという。もちろんサブスクしましたとも。

 

そりゃあ本来舞台は直に観るべきものだろうし、そっちの方がいいに決まってる。でも舞台が良くて音響とカメラが良ければ、配信もいいものだ。生の舞台ともドラマや映画ともちょっと違う、「配信舞台」というジャンルだ、と私は勝手に思っている。問題点は、いつでも見れると思うと中々見ないことだなNetflixなんかと同じで、見たいと思いつつ見ていない作品がどんどん溜まっていく。あと自分の家で見るとあまり集中出来ない。つい一時停止してちょこちょこ立ち上がって何かしちゃう。日本にはNTLiveをやってる映画館があるらしいからちょっと羨ましい。

 

前置きが長くなったけど、無料配信の時に初めて観た作品が『ジェーン・エア』。とても気に入って、これがきっかけでネット配信で舞台を観るのもアリなんだと知った、私にとって大事な作品。NT@homecoming soonコーナーに出てきてたから、また見ることが出来るようで嬉しい。

 

 

✴︎ ネタバレあります。

 

 

舞台は板と骨組みだけの非常にシンプルな作り。スロープや梯子があって、上下に移動できるようになっている。役者の数が少なくてジェーン役以外は一人が複数役を演じ、小道具も扱ったりする。ジェーンの着替える服が上から吊り下がって降りてきたり、役者達が木枠を持って窓に見立てたりするのが私には新鮮だった。そして生バンドと生歌が良いアクセントになっている。バンドをバックに役者がその場駆け足する事で移動を表すのが面白い。

 

ストーリーは概ね原作通りだったように思う。読んだのは大昔だから細かい事まで覚えていないけど。自由と尊厳を大切にする一人の女性ジェーンの成長物語。「It’s a girl(ジェーンの誕生)という台詞で始まった物語は、最後にジェーンの娘が生まれ、同じ台詞で幕を下ろす。ジェーンのこれまでの人生と新しい一人の女性のこれからの人生が繋がって受け継がれていくのを感じさせ、余韻を残す。

 

ジェーンとロチェスターが美男美女でないのがとても良い。特にジェーンを少女時代から全部演じたMadeleine Worrallが素晴らしかった。印象的だったのは死にかけた伯母に会いに行った時の態度で、彼女の成長をしみじみと感じた。そしてジェーンがロチェスターに愛の告白をする場面、ヤケクソで全然ロマンチックじゃないのにとても美しく心を打つシーンになっている。

 

ジェーンの心象風景のようなものを歌っていた歌手がバーサ役だったのには、ほほう、と思った。『屋根裏の狂女』で考察されていた「バーサ=ジェーンの闇の分身」論を思い出した。

 

それから何といっても忘れちゃダメなのが犬。犬にはビックリしたし、とても楽しませてもらった。もしかしたらこの作品最大の注目ポイントかも知れない。