さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

2023年 映画一言感想

今年映画館で観た映画のゆるくいいかげんな感想。

 

⚠️ネタバレ注意⚠️

 

 

 

 

『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督

何語で撮っても是枝節になるね。『真実』もそうだったな。

血の繋がりのない者たちが赤ちゃんを中心に疑似家族になる。『万引き家族』の希望ありバージョン。最後に刑事が子供を預かって育てるところとかちょっと丸く収まりすぎでは、と思うところもあったけど楽しめた。刑事たちが張り込み中にいつももぐもぐしてるのがいい。少年がいい味を出してて、見てる間中ずっと誰かに似てると考えてたけど誰か思い出せない。

 

Holy Spider』(聖地には蜘蛛が巣を張る)アリ・アッバシ監督

カタカナばかりの邦題はあまり好きじゃないけれど、これは普通にホーリー・スパイダーじゃダメだったのか?自分は正義を行っていると思っている殺人犯のサイードが良き市民として生活している様子が不気味だ。何より息子が父親を称賛している様がゾッとする。こうしてサイードが再生産されていく。

 

The Banshees of Inisherin』(イニシェリン島の精霊)マーティン・マクドナー監督

非常に良かった。おじさん二人の喧嘩の不気味で不条理なエスカレートぶりよ。二人の「真っ当な」人物は共に島からいなくなる。島の誰よりも知的な妹は湖畔で自殺しようとしていた?ところにドミニクから声をかけられ、最後には島の外で幸せに暮らす。まるで身代わりのようにそこでドミニクが(おそらく)自殺する。動物含む全ての役者達の演技が最高。

 

Tar』(TAR /ター)トッド・フィールド監督

ケイト・ブランシェットは文句なしに素晴らしい。でも彼女はセクハラ・パワハラの加害者だから、加害者に寄り添った視線になってしまう。落ちぶれて一からやり直す先がアジア、というのが古臭い描き方のように思える。

 

The Whale』(ザ・ホエール)ダーレン・アロノフスキー監督

場所が主人公のアパート限定で、ちょっと舞台っぽい。主人公が息を切らしたり苦しんだりしてるシーンが多くて、観ててしんどかった。ホン・チャウの演技が好きだ。主人公の昇天で終わったけど、目の前にいた娘はあの後大丈夫かいな。トラウマになるんじゃいや、父親の体が倒れてきたらえらい事になるのでは。

 

Everything Everywhere All at Once』(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督

まんまカタカナで長々タイトル。まあこの作品は他につけようがないな。監督二人がやりたい事をやりたい様にやった感。誰よりも自分たちが楽しんだのでは。壮大にマルチバースの世界を繰り広げておきながら、結局は家庭内の問題だったとか「人に優しく」だとか、嫌いじゃない。お気に入りはやはり指ソーセージ・バース。下品でキモくて笑えて何故か妙に美しい。

 

The Fabelmans』(フェイブルマンズ)スティーヴン・スピルバーグ監督

スピルバーグはやはり上手い。映画作りにハマった自伝的ストーリーだけど、映像を撮ることの怖さも見せる。

 

Air』(AIR /エア)ベン・アフレック監督

邦題が『TAR /ター』とそっくりだな。80年代の音楽てんこ盛り。この映画の目的はストーリーじゃなくて音楽なのでは?顛末が分かってるから安心して観れる。ジョーダン母がとても良かった。

 

『すずめの戸締り』新海誠監督

若い時に見たらもっと入りこめたかも。今くらい捻くれてくると、なんか随分簡単に命懸けの恋しちゃうなあとか、偶然が過ぎるなあとか、諸々気になってしまう。

 

Els Encantats』エレナ・トラぺ監督

離婚したIrene4歳の娘が前夫と数日過ごすため、初めて娘と離れることに。新しい現実を受け止めきれず、ピレネーにある家に向かう。でも昔の場所に行ったって以前に戻れるわけではないし、大自然に包まれたって問題が解決するわけでもない。Ireneの娘への執着がちょっと鬱陶しい。Ireneの母親も似たタイプのようで苦笑。

 

Indiana Jones and the Dial of Destiny』(インディ・ジョーンズと運命のダイヤル)ジェームズ・マンゴールド監督

『最後の聖戦』で申し分ない終わり方をしたと考えているので、続編を見るつもりはなかったのに、息子が見に行きたいというので全編復習した。第四作ちょっと酷くないか?という訳で期待値マイナスで本作を観たせいか、そんなに酷くなかった気がしてしまった。ヒロインが何したいかよく分からないし、まだナチ引っ張ってるし、前作登場したばかりの息子がもう死んでるし、アントニオ・バンデラス随分あっさり死んじゃったし、UFOの次はタイムトラベル⁉︎とか、まあ色々あるけどインディを見届けることができて良かったよ。

 

Barbie』(バービー)グレタ・ガーウィグ監督

重層的な作りで、笑って楽しみながらも色々読み取れる、よく出来た作品だった。色々な映画へのオマージュ見つけるのも楽しい。マーゴット・ロビーはバービーにぴったりだし、アメリカ・フェレーラも好演。でも私のイチオシはライアン・ゴズリング。一つ一つの表情や動き全てがジワジワ来る。

 

Mission: Impossible – Dead Reckoning Part One』(ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE)クリストファー・マッカリー監督

実は初M:I。予習の為にシリーズ全作見ようとしたけどあまりに多すぎて諦めた。アクション映画は必ずカーチェイスと走行中の列車の上でのバトルを入れなければならない決まりでもあるのか?その二つのシーンが長すぎるし、ツッコミどころはあるけど全体的にあっという間の2時間43分だった。しかし顔マスク、顔だけ変えても身長・体型・声等々どう考えても無理だと思うんだけど、そもそもそれを言い出したらシリーズが成り立たないのか。まあいいよ。楽しんだから。

 

A Haunting in Venice』(名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊)ケネス・ブラナー監督

本作はあまり知られていないクリスティ作品をアレンジしたものらしい。ミシェル・ヨーが呆気なく退場して寂しい。とにかく画面が暗すぎて分かりにくい。ホラー味が強くて、突然の大きな音で驚かせるとか、急に背後に女の子の恐ろしげな姿が現れるとか、私の苦手なものが満載だった。ポワロの仏語訛りが聞き取りにくかった。

 

『君たちはどう生きるか』宮崎駿監督

宮崎駿のてんこ盛り。中にオジサンの入ってるサギとか、魂食うペリカンとか、人間化して人を食うインコとか、随分鳥にこだわるね?継母と婆やたちが白雪姫と7人の小人みたい。

 

Killers of the Flower Moon』(キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン)マーティン・スコセッシ監督

出た、まんまカタカナ長々タイトル。206分てどういうことだよと思ってたけど、意外に長さを感じず。冒頭の石油浴びシーンと終盤の火事シーンが良かった。リリー・グラッドストーン演じるモリー、威厳があって素晴らしい。こんな自立した女性なのに(だからこそ?)「賢くないけど可愛い」とか言ってダメな奴に惚れてしまったのが運の尽き。ジェシー・プレモンスが登場する度に、マット・デイモンちょっと変わった?と思ってしまう癖を何とかしたい。ブレンダン・フレイザー1人が全く違うテンションの演技だから笑ってしまった。

 

The Old Oak』(オールド・オーク)ケン・ローチ監督

ケン・ローチがまだ映画を作ってたことに驚愕。最初に出てきたいかにも暴力問題起こしそうな人物がほぼそこだけだったり、常連客のエピソードが無理にこじつけてるような、とってつけた感が否めず。

 

Napoleon』(ナポレオン)リドリー・スコット監督

ちょっと突き放した感じで淡々として皮肉っぽく、どこかコミカルな描き方で、ナポレオンに心を寄せる作りにはなっていない。全然カリスマ無いし。私も別にナポレオンに好印象は持っていないので構わんが。最後に戦死者数が出てくることもそう。戦闘シーンは流石の作りで、トゥーロンもアウステルリッツもロシアもワーテルローもどれも凄く印象的。ジョセフィーヌの心情の変化が今一つ分からん。最初は明らかにナポレオンの性的能力に不満そうで、いつの間にそこまでナポレオン好きになったんだ?

 

 

今年の一番は断トツで『イニシェリン島の精霊』、次点が『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』かな。『エブエブ』もかなり好きな方。別枠で、フライト中に見た『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』が思いの外面白かった。宮崎駿、スコセッシ、ケンローチ、リドリースコットと、高齢監督の映画を沢山観た年だった。

 

12/29追記

Fallen Leaves』(枯れ葉)アキ・カウリスマキ監督

サイコー!古典的ラブストーリー・カウリスマキ風。ここで『デッド・ドント・ダイ』かよ!とツッコんだ人は少なくないはずだ。個人的にツボったのは映画後の男二人のコメントと、ヤンネ・ヒューティアイネン(大好き!)が主人公にカラオケ褒められて「珍しく正直な意見を聞いた云々」(テキトー訳)というとこ。最後の方のヒロインの微笑みにキュンとする。『希望のかなた』のシェルワン・ハジがちょい役で出てきた!

 

ということで、今年の一番は『イニシェリン島の精霊』と『枯れ葉』の二作品ということにします。