さまよえる前日鳥

読んだもの、観たものについての取り留めない覚え書き。ネタバレ注意。

『地球星人』村田沙耶香

新潮文庫

 

小学生の奈月は、毎年お盆に父親の田舎である秋級に行くことを何よりも楽しみにしている。秘密の恋人であるいとこの由宇に会えるからだ。自分が魔法少女であり、ポハピピンポボピア星からの使者ピュート(ハリネズミのぬいぐるみ)と組んで地球を守っていることを話したのは由宇にだけだ。

 

普段千葉で暮らす奈月は、自分が家族の中で浮いていると感じている。特に母と姉から蔑まれ、暴言を吐かれ、時に暴力も振るわれる。でも家族から追い出されたら子供の自分は生きていけないから耐えている。しかし塾講師の大学生から性的虐待を受け始め、心が追い詰められていく。

 

 

 

 

 

 

ネタバレです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひゃああああああああああああああ!

いやもう、ひゃあああああああとしか言いようがない。こんな展開が待っているとは。

 

『コンビニ人間』と同じように、本作でも村田沙耶香は人間社会の常識に疑問を投げかける。しかも凡人の想像をはるかに超えるやり方で。

 

奈月の小学生時代のパートは読むのがとても辛い。秋級の田舎で親戚が集まる様子や、お盆や埋葬の風習などは読んでいてとても面白いけれど、家族と塾講師から虐待される様子が辛すぎる。何があっても生き延びることを由宇と約束したから生き延びているだけだ。その由宇も子供らしく生きられない家族環境にいる。

 

奈月にとって世界は、働く道具になり、生殖器になるための人間工場だ。その為には勉強と「女の子」を頑張らなくてはならないけれど、どちらの道具にもちゃんとなれそうもない自分がいる。社会の「あたりまえ」に違和感を持ち、矛盾を感じ、自分がそれに加われない疎外感を感じている。

 

奈月は性虐待のせいで口や耳が壊されて、食べても味がわからず右耳は聞こえなくなったりする。性行為も出来ない。ところが雪に閉ざされた秋級で人間界から離れ、地球人の常識から自由になることで、失っていたものを一つずつ取り戻していく。そして完全に地球人性を脱ぎ捨てることでポハピピンポボピア星人になる(還る)のだ。

 

人肉食などグロテスクなシーンもあるのだが、この作者の文にはどこか軽やかさがあって、そういうグロい場面でも妙な笑いが込み上げてきたりする。「男と大根の葉の炒め物」って…。

 

夫である智臣くんのキャラがよい。素直で迷いがなく、奈月と由宇だけだと暗くなってしまいそうなところを明るく救ってくれている。彼のおかげで三人とも無事に(?)立派なポハピピンポボピア星人になれたのではないだろうか。

 

ラスト近くでポハピピンポボピア星人の由宇が言う「僕たちは明日、もっと増える。明後日は、それよりもまたもっと増える」という言葉が非常に味わい深い。ホラー的な恐ろしさがあるのだけれど、それと同時に輝かしい未来への希望をも感じてしまう。地球星人の人間工場サイクルから逃れたい者たちにとっては福音ではないか。

 

という訳で、更に村田沙耶香の作品が好きになった。次はどれを読もうか。